ブログ

2026-09-11 10:00:00

医療法人にお金を残しすぎるのは危険?

7回 医療法人向けブログ

医療法人にお金を残しすぎるのは危険?

内部留保のメリットと知っておくべきリスクを税理士が解説

池田税理士事務所 税理士 村上 | 医療法人専門コラム

こんにちは、税理士の村上です。

6回では役員報酬の決め方・変更ルールをお伝えしました。今回は、医療法人の経営において見落とされがちなテーマ——「内部留保」について解説します。

「法人にお金を残すのは節税になる」というイメージをお持ちの先生も多いですが、内部留保は積み上げるほどリスクも大きくなるという側面があります。メリットとリスクの両面を正しく理解し、適切にコントロールすることが重要です。

内部留保とは何か?

内部留保とは、医療法人が毎年の事業活動で得た利益のうち、役員報酬・経費等を支払った後に法人内に残った資金・資産の累積のことです。法人の貸借対照表では「純資産」の増加として表れます。

医療法人は利益の配当が禁止されているため、利益を個人に還元する手段が限られています。その結果、適切な出口設計をしないまま利益が法人内に蓄積されていくことになります。

 

内部留保のメリット

設備投資・分院展開の財源になる

医療機器の更新・クリニックの改修・分院開設など、まとまった資金が必要な場面での自己資金として活用できます。借入に頼らずに設備投資ができるため、財務体質の安定につながります。

緊急時・不測の事態への備え

感染症の流行・自然災害・急な患者数の減少など、想定外の事態に対するリスクバッファーとして機能します。ある程度の手元資金を確保しておくことは、クリニックの安定経営の基盤となります。

役員退職金の原資になる

4回でも触れましたが、院長先生が将来受け取る役員退職金の原資として、計画的に内部留保を積み上げておくことができます。退職金は支給時に損金算入できるため、長期的な税務プランと組み合わせて活用します。

 

内部留保が積み上がることのリスク

解散・承継時の税負担が増大する

持分あり医療法人の場合、内部留保が増えるほど出資持分の評価額が上昇します。後継者への持分承継時に発生する贈与税・相続税の負担が大きくなり、承継を困難にする要因となります。

持分なし医療法人の場合も、解散時の残余財産は国・地方公共団体等に帰属するため、院長先生個人には戻ってきません。過度な内部留保は「個人が取り戻せない資産」を積み上げることになります。

注意

持分あり医療法人では、内部留保の増加がそのまま相続税評価額の上昇につながります。将来の承継を見据えた計画的な内部留保のコントロールが不可欠です。

個人に還元する手段が限られ、出口設計なしでは資産が固定化される

医療法人は配当禁止のため、内部留保を個人に還元する手段は役員報酬・役員退職金・社宅等の現物給付に限られます。出口設計なしに資産が蓄積されると、院長先生が引退する際に有効活用できない資産が残るリスクがあります。

 

内部留保の「適正水準」の考え方

内部留保に法律上の上限はありませんが、実務上は以下の観点から適正水準を検討します。

観点

目安・考え方

運転資金の確保

月次の固定費(人件費・賃料等)の36ヶ月分程度を目安に手元資金を確保する

設備投資計画

近い将来の医療機器更新・改修費用を見込んで積み立てる

退職金の原資

院長先生の予定退職時期・退職金額を逆算して必要な積立額を把握する

承継・相続対策

持分あり法人は評価額の上昇リスクを踏まえ、過大な留保を避ける設計をする

余剰資金の活用

上記を超える余剰資金は、役員報酬・退職金・設備投資・MS法人活用等で計画的に活用する

 

内部留保を適切に活用するための方法

蓄積した内部留保は、以下のような形で計画的に活用することが重要です。

     役員退職金として支給する  退職時に損金算入でき、院長先生の手元にも税負担を抑えて届けられる最も有効な手段のひとつ

     設備投資・分院展開に充てる  医療機器の更新・クリニックの改修・新規開設など、事業目的に沿った活用

     法人契約の生命保険を活用する  保険の種類によって損金処理の取り扱いが異なるため、税理士との事前確認が必須

     MS法人との取引を通じた活用  第5回で解説したMS法人を活用し、適正な取引を通じてグループ全体で有効活用する

     持分なし法人への移行(持分あり法人の場合)  認定医療法人制度を活用することで、相続税・贈与税のリスクを軽減しながら移行できる場合がある

 

まとめ

内部留保は医療法人の経営基盤を支える重要な資産ですが、「積み上げれば積み上げるほどよい」というわけではありません。

 ポイント 

内部留保は「必要な水準を確保しつつ、余剰分は計画的に活用する」という視点が大切です。特に承継・解散を見据えた中長期の出口設計を、早い段階から税理士と一緒に考えておきましょう。

次回(第8回)は、「医療法人の交際費はどこまで経費になる?税務上の境界線を解説」をお届けします。

次回:第8回「医療法人の『交際費』はどこまで経費になる?税務上の境界線を解説」